一人会社の会社設立について
・はじめに
・設立手続きの手順
・基本的な事項の決定
・法務局で商号と目的のチェック
・会社の実印の作成
・定款の作成
・公証役場での定款認証
・資本金(出資金)の払込み
・設立登記申請
はじめに
新会社法が平成18年5月に施行されてから、役員が一人だけの株式会社を設立することができるようになりました。
しかし、会社を設立するための手続をする上で、公証人に支払う定款認証手数料と法務局に納める税金(登録免許税)だけでも20万円が必要ですし、株式会社を設立すると、その会社が毎年赤字であっても、地方税が課税されることになります。
会社の設立をしなくても、個人事業をするという選択肢もあるのですから、会社を設立する前に、こういった手間やお金の見返りが十分にあるのかどうかを検討しておくべきです。
設立手続の手順
1 設立する会社の事項を決定します
2 法務局で、商号と目的をチェックします
3 会社の実印を作成します
4 定款を作成し、公証人役場で定款を認証してもらいます
5 資本金(出資金)を振込みます
6 設立登記を申請します
基本的な事項の決定
株式会社を設立するにあたっては、まず、次のような事項を検討します。
(1) 会社の名称(商号)
(2) 会社が営もうとする事業内容(目的)
(3) 本店の所在地
(4) 誰がどれだけのお金を出資するか?(発起人・資本金)
(5) 事業年度
(6) 取締役
(7) その他の事項の決定
(1)会社の名称(商号)
会社の名称のことを商号といいます。
株式会社の商号には、「株式会社」という文字を含まなければなりません。
商号に含まれるべき文字は、「株式会社」という漢字四文字でなくてはならず、「かぶしきかいしゃ」という仮名や「Ltd」といったアルファベットが含まれていても、株式会社の商号としては認められません。
また、この「株式会社」 という文字は、商号を構成する付加文字ですから、「株式会社」という四文字だけの商号も許されません。
他の法令により、使用を禁止されている文字を用いることも許されません。
例えば、銀行、信託、証券、保険等の各事業を営むものでない会社が、その各業者であることを示すような文字を商号中に用いることはできません。
会社の本店に支店であることを示す文字を用いることや、商号中に会社の一営業部門であることを示す「不動産部」のような文字を用いることはできません。
ローマ字を使用した商号、「&」(アンパサンド)、「’」(アポストロフィー)、「、」(コンマ)、「-」(ハイフン)、「.」(ピリオド)及び「・」(中点)の6種の符号を使用した商号も登記可能です。
ただし、この6種の符号は字句を区切る際の符号として使用する場合に限り、用いることができます。
したがって、ピリオドは省略を表すものとして商号末尾に使用可能ですが、それ以外の符号は、商号の先頭又は末尾に使用できません。
(2)会社が営もうとする事業内容(目的)
会社は、その資本を基に事業を行って利益をあげることを目指して設立されるものであり、この会社の営もうとする事業を会社の目的といいます。
(3)本店の所在地(所在場所)
本店の所在地は、市町村(東京都の特別区においては区)まで定めればよく、その場所までを定款で定める必要はありません。
定款で場所まで定めていなかった場合は、発起人の議決権の過半数で決定します。
(4)誰がどれだけのお金を出資するか?(発起人・資本金)
会社に出資する人を、発起人と呼びます。
会社法の施行により、出資する金額が1円でも会社を設立することができるようになりました。
(5)事業年度
一般的には、何月何日から何月何日までの1年を一事業年度とします。
また、「決算期」 は、事業年度の末日を意味する言葉です。
株式会社は、各事業年度にかかる計算書類及び事業報告並びに附属 明細書を作成し、定時株主総会の承認を受けなければなりません。
また、定時株主総会は、毎事業年度の終了後、 一定の時期に招集しなければなりません。
なお改正前商法においては、事業を意味する用語として、「営業」との用語が使用され、「営業年度」の用語が使われていましたが、会社法においては、「事業」として整理され、「事業年度」の用語が使用されています。
(6)取締役
役員が一人の株式会社で、株式会社の業務を執行する人は取締役と呼ばれます。
会社を設立するためには、株式会社が設立された時に取締役となる人(設立時取締役)を決めなくてはなりません。
定款で定めることもできますが、発起人が選任することもできます。
なお、取締役が一人しかいない場合には、その取締役が当然に株式会社を代表します。
つまり、その取締役が代表取締役となります。
(7)その他の事項の決定
どの発起人がどれだけのお金を出資して、どれだけの株式を引き受けるか、また、出資してもらったお金のうち、どれだけを資本金にするかといったことについて定款で定めなかった場合には、発起人全員の同意で次の事項を決定します。
1.発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
2.前号の設立時発行株式と引換えに払いこむ金銭の額
3.成立後の株式会社の資本金及び資本金の額に関する事項
法務局で商号と目的のチェック
商号、目的を決めたら、問題がないかどうかについて確認するために、本店所在地を管轄する法務局にいきます。
(1) 商号についてのチェック
改正前商法では、他人が登記した商号は同一市町村内において同一の営業のために登記できず、同一市町村内において、同一の営業のために他人が登記した商号と判然区別することができない商号の登記が禁ぜられていましたが、このいわゆる類似商号規制は廃止されました。
ただし、不正の目的をもって、他の会社と誤認されるおそれのある名称又は商号を使用していると判断される場合には、侵害停止又は予防請求、不正競争防止法に基づく差し止め及び損害賠償請求を受ける可能性がありますので注意が必要です。
また、不動産登記等において、法人は住所と商号によって特定することとされているため、同一商号・同一住所の会社が複数存在することを認めることは相当でなく、商業登記関係でも同一住所同一商号の登記は許されません。
そのため、同一住所に同一商号の会社がないかどうかについては、法務局の商号調査簿を閲覧して確認しておく必要があります。
なお、この閲覧は無料です。
(2) 目的についてのチェック
従来、会社の目的の記載については、適法性、営利性、明確性及び具体性がなければならないとされ、特に明確性及び具体性については、いわゆる類似商号の禁止規定との関係で慎重に判断がなされてきました。
禁止される類似商号に当たるか否かの判断に際し、目的が同一か否かが問題になるからです。
ところが、会社法は、類似商号の禁止規定を廃止し、営業所の所在地が同一の場合以外は同一商号であっても登記は受理されることになりました。
そこで、目的の具体性は、登記官において審査されないこととなりました。
しかし、会社の目的がどのようなものであるかは、依然として株主や取引の相手方にとって重要な関心事である上、会社法が、類似商号の禁止規定を廃止する一方、不正の目的をもって他の会社と誤認されるような商号を使用することを禁止し、既存の商号使用者からの侵害停止、侵害予防請求を認めていること、不正競争防止法が、他人の商号として広く認識されているものと同一若しくは類似の商号等を使用するなどして他人の営業等と混同を生じさせる行為をした者に対し、差止請求、損害賠償請求を認めていることから、不正の目的の有無や、誤認混同の有無を判断するに際し、目的の記載が問題となることを考慮すると、目的の記載については、従前どおり適法性、営利性及び明確性が必要とされるほか、具体性についても慎重な判断が必要です。
「商業」、「商取引」、「建設業」、「製造業」等の抽象的・包括的な記載は相当ですが、欧米の社会に見られる「適法なすべての営利事業」などの記載は、目的の記載としては不相当です。
会社の目的の記載として相当であるかどうかについては、法務局で登記官と相談することができますので、問題がないかどうかを予め確認してもらうのがよいでしょう。
なお、この相談についても無料です。
会社の実印の作成
登記申請する際には、管轄法務局に設立する会社の印鑑を届け出る必要があります。
届け出る印鑑はすでに、個人で使用している印鑑を届けても問題ありませんが、届けた印鑑が、会社の実印となります。
定款の作成
商号、目的に問題がないことが確認されたら、先に検討した事項に基づいて定款を作成します。
定款とは社団たる法人の目的、内部組織、活動に関する根本規則、又はこれを記載した書面、若しくは電磁的記録に記録したものです。
会社の設立に当たって、定款を作成する必要があります。
定款は、発起人が書面、又は電磁的記録に記録する方法で作成し、書面によるときは発起人らがこれに署名又は記名押印しなければなりません。
参考資料として、日本公証人連合会のホームページを挙げておきます。
http://www.koshonin.gr.jp/index2.html
公証役場での定款認証
定款は、設立しようとしている会社の本店を管轄する法務局に所属する公証人に、公証役場で定款を認証してもらうことになります。(東京に本店をおく会社の設立にあたって、横浜地方法務局に所属する公証人に定款を認証してもらうことはできません)
必要な書類は以下の通りです。
1 定款 3通(1通が公証役場に保存され、設立登記申請の際に1通を添付し、1通が会社保存用原本となります)
定款原本には、作成者全員が、署名又は記名押印した上、原則として、各葉ごとに契印する必要があります。
もっとも、袋綴じの場合は表紙等の綴目に契印すれば足ります。
社員多数の場合等で、全員が綴目等に契印できないときは余白部分に押印すれば足り、また、全員の押印が困難な場合は、一部の社員の契印のみで足ります。
謄本用の定款には署名又は記名押印を要しませんが、通常の場合は、提出する3通とも、全員が、署名又は記名押印していることが多く、1通が押印等の不備の場合に対応しやすいので、このようにするのが良いと思われます。
定款の文字に訂正(挿入、削除)のあるときは、その字数及び箇所を記載して作成者全員が訂正印を押捺する必要があります。
記載場所は、各訂正箇所の欄外でもよいし、全部まとめて定款末尾の余白にしてもかまいません。
往々にして、訂正の必要が生ずることがあり、代理人による認証などの場合には対応しにくいので、訂正のための捨印が押されていると訂正が容易になります。
2 発起人の印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの) 発起人ごとに各1通
会社が発起人の場合には、登記所の発行する印鑑証明書を用意します。
3 収入印紙(4万円)
公証人保存用原本に貼付して、消印します。
消印は、発起人全員でする必要はなく、代理人でもできます。
4 代理人によって認証を受ける場合には、委任状1通
5 会社が発起人の場合には、会社の登記事項証明書 1通
新たに設立する会社の発起人となることが発起人となる会社の目的の範囲内にあることを確認する必要があるので、代表者の印鑑登録証明書のほかに、会社の登記簿謄本の提出が必要です。
6 公証人の認証手数料 5万円
7 公証人の謄本発行手数料
電子定款認証について
以上が、紙の定款に対して認証を受ける場合に必要な書類ですが、法務大臣によって特に指定された「指定公証人」は、定款認証を、紙の文書に対してだけでなく、電子文書(電磁的記録)に対しても行うことができ、その認証手続は紙の定款の認証手続とは若干異なります。
そこで、指定公証人に電子定款を認証してもらう手順を以下に示しておきます。
- ワープロソフト等で定款を電子文書として作成します。
- 次に、事前に嘱託先の公証役場に電話をするなどして、担当者と事前の打合せをします。
- ワープロソフト等で作成した電子定款をソフトウエア「Adobe Acrobat(スタンダード版)」でPDFファイルに変換します。(利用できるファイル形式はPDFに限ります。)
- 電子証明書を用い、PDFファイルに電子署名をします。
- 署名をしたPDFファイルをフロッピーディスクに保存して公証役場窓口に提出します。
(紙の定款に対して認証を受ける場合には、作成者が文書に実印で押印し、その印鑑証明書を添付して公証人に提出することになりますが、電子文書として作成された定款(電子定款)に対して認証を受ける場合には、作成者が電子署名をし、電子証明書とともに公証人に提出するということになります。)
その提出の際に、電子文書の内容自体(同一の情報)の保存を希望する場合、謄本(同一の情報の提供)を希望する場合、書面の形で謄本の交付を希望する場合は、その旨を申し出ます。
法務局に認証済みの定款を提出して会社登記をする場合は電子文書の形で受け付けて貰えますが、銀行等の金融機関では現在紙ベースのものしか受け付けない実情にあります。
そこで、謄本(同一の情報の提供)は必ず書面でも交付を受けてください。
電子定款に対して認証を受ける場合には、紙の定款に対して認証を受ける場合と異なり、4万円の印紙代が不要になるというメリットがあります。
ただし、認証してもらうべき電子定款を作成するためには、パソコン等機材・ソフトウエアや電子証明書の取得をするなどして、電子定款の認証を受けるための環境を整える必要があり、この環境をお持ちになっていない一般の方が1回の定款認証のためだけに費用をかけて環境を一から構築することは現実的とはいえません。
一方、当事務所では、電子定款を作成するための環境がすでに整えられており、電子定款に対して認証を受けられる場合は、原則として電子定款に対して認証を受けるようにして印紙代コストの削減を図っております。
資本金(出資金)の払い込み
公証人に定款を認証してもらったら、発起人にお金を払い込んでもらいます。
設立の際の払い込みは払込取扱機関による必要がありますが、その払い込まれた金銭の額の証明のために、払込金を払い込んだことを証明するに足る預金通帳の写し等の方法によることができるようになりました。
一般的には、代表取締役になる発起人の個人口座を利用します。通帳に出資した人の個人名と出資した金額がちゃんと記録されるように振込みを行ってください。
設立登記申請
以上の手続を終え、本店所在地を管轄する法務局で株式会社設立登記をすることによって、会社が成立します。申請に必要な書類は
- 設立登記申請書 1通
- 定款 1通
- 設立時発行株式に関する事項を発起人全員の同意で決定した場合には、発起人の同意書 1通
- 本店所在場所を発起人で決議した場合は、その決議書 1通
- 設立時取締役を発起人が決定した場合は、その決定書 1通
- 設立時取締役の就任承諾書 1通
- 設立時取締役の個人の印鑑証明書 1通
- 払込みを証する書面 1通
- 資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書 1通
- 代理人によって申請する場合は委任状 1通
- 会社の印鑑届書 1通
です。また、法務局に資本金の1000分の7に相当する額(この額が15万円未満ならば15万円)の税金(登録免許税といいます)を納めなくてはなりません。
(普通は、15万円分の収入印紙を申請書に貼付します。)
参考資料として、法務省民事局のホームページを挙げておきます。
http://www.moj.go.jp/content/000011597.pdf